エルワダム

2012年5月31日 (木)

エルワ川のダム撤去に日本も学ぼう!

エルワ川のダム撤去はエルワ川再生プロジェクトの一環

1000近くのダムが撤去されているアメリカにおいても、大型ダム撤去に突入したのは、去年の9月から撤去工事が始まったエルワ川の2つのダム-エルワダムとグラインズキャニオンダムが初めての事例となります。(詳細は過去ブログをご参照下さい)

川の規模も撤去された2つのダムの規模も、球磨川と撤去予定の荒瀬ダム、及び上流の市房ダムの規模とそう変わりません。しかし、エルワ川のダム撤去と球磨川のダム撤去を比較すると、その目的や撤去の過程、撤去に関する関心の高さなどについては大きな開きがあります。

一番の違いはエルワ川のダム撤去が、ただ単に老朽化したダムを撤去するという撤去だけを目的としたものではなく、エルワ川の再生のためにはダム撤去が必要だと判断していることです。そのためにダム撤去がその費用の5~6倍を再生事業に費やすというエルワ川再生計画の一環となっています。

そのために、モニタリング調査も河口域も含めたエルワ川流域全体に及んでいます。サーモンの追跡調査やカワウソの生息域の変化の調査など生物のモニタリング調査の対象や範囲も多岐にわたります。このタム撤去で得られた様々なデータが、今後のダム撤去を含む河川政策に大きな影響を与えるだろうと、行政のみならず多くの研究者が注目する現場となっています。

こういう調査以上に荒瀬ダム撤去の現場からみて、羨ましいのは、このダム撤去が貴重なデータを得る機会だという視点だけではなく、住民や行政が全米初のダム撤去をどれ程楽しみにしているのかをうかがい知ることができる多くの取り組みです。

そのいくつかを紹介です。

展示会「River Story」開催

6月1日から9月末まで、4ヶ月にわたって、エルワ川の再生をテーマに絵画や彫刻、写真、様々なアート作品の展示会が開催されます。ダム撤去の工事と並行して、明日からの開催に向けて地元はその準備に全力をあげてきました。地元や国内の有名なアーティトの作品が展示される予定です。詳しくは、HP:River Story on Exhibit をご参照下さい。

1↑昨年9月11日の撤去祝賀会の会場のスタージに利用された作品や多くのアーティストの作品が展示される予定です。2

ダム湖後の裸地への緑化事業

ダムの撤去作業と並行して、水位が下がって出現する裸地を緑化するための準備が2006年から進められてきました。オリンピック国立公園のスタッフだけでなく多くのボランティアの手によって、在来植物の種の採取や播種作業、ポット苗づくりを実施してきました。

今年植えた植物が根付いたという出来事がニュースで取り上げられていましたが、水位が下がって外来植物の侵入を好き放題に許している荒瀬ダムの現場からみると、とても羨ましく思うと同時に、自然を再生することに対する両国の姿勢の違いを改めて認識せざるをえませんでした。そのニュースの内容を簡単に紹介です。 Peninsula Daily News 2012 April 1

=ダム湖だったところに在来の植物が根付く=

去年の11月から3月、植物の休眠期間中に植えられた種が秋に成長を始めると、いろんな調査が実施され、どこにどのような植物を植えるのがいいのか、緑化に必要な種を決定するのに役立てられる。地元のワシントン大学や他の大学の大学院生たちが、植物名のタグつけ作業をしながら、再生計画をたて実行しているが、同時に観察や学習の機会となっている。

4月になるとエニシダやヒメフウロ、日本原産のタデの仲間、外来のブラックベリーなど、歓迎されない外来種が侵入を始め、除草作業や除草剤の散布が必要になる。これらの作業がエルワダムのダム湖、及びグライン図キャニオンダムのダム湖だったっところ、及びその中間地点で続けられている。

環境教育の場としての利用

エルワ川は現在、川の再生に関する環境教育の場として様々なプログラムが企画され、国内外の学生たちを受け入れています。

=学生たち、エルワ川研究所で調査= 

Students explore Elwha River 'laboratory'

先週、シアトルの高校2年生30名がオリンピック公園に付随している科学ハンズオンラボで週を過ごした。河川生態学に関係する科学技術を学べる施設である。学生たちはクララム族の養殖サーモンに関するフォーラムに参加したり、水質の測定方法を学んだり、カヌーでの探検を経験したりする。

また、ダムサイトトから河口、またクラインズ・キャニオンダムとそのダム湖だったところに行く機会も与えられる。エチオピアから参加していた15歳の交換留学生は故郷に帰ったら、ここで学んだ河川生態学の知識を役立てたいと話した。諮った溶存酸素の値が、魚にとっていい状態ではあるが、理想的ではないこと、また、ダム湖に堆積した100年分の土砂がどのように排出されるかなどについて説明を受けた。

インストラクターのミラー氏は 「エルワ川の再生プロジェクトが、どの程度成功するか、またそれがはっきりするまでどの程度の期間がかかるのか誰にも分からない。それだけに科学の教育者にとってはまたとない機会になるだろう」と言う。

活動の休憩時間に二人の学生が熱心に議論をしていた。クララム族の人工孵化場が長期的にみて、川の将来にいいのか悪いのかということについてだった。一人の学生は、それで生計を立てている職業漁師のために早く数を増やす必要があると主張。もう一人の学生は「野生のサーモンが時が経てば、川にとってだけでなく、漁師にとっても長く良い結果をもたらす」と主張した。

それを見て、インストラクターのミラー氏は、学生たちが自分たちの意見を発展できる程に河川生態系について十分学ぶことができたと微笑んだ。

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これらの取り組みはエルワ川だけで可能というわけではなく、荒瀬ダム撤去の現場にも同じように与えられたチャンスに他なりません。折角の機会を十分に生かそうという発想が行政や事業者にないのは、大変残念ですが、住民レベルでも企画できるプログラムも十分考えられます。日本初の大型ダム撤去の機会を是非全国の皆様に生かした様々なアプローチを考えてほしいものです。

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2011年12月29日 (木)

ダム撤去工事により川に戻りつつあるエルワ川(アメリカ)

アメリカのエルワ川において、今年の9月に開始された二つのダム撤去開始から3ヶ月が過ぎました。エルワダムとグラインズキャニオンダムのダム本体は半分程が撤去され、上流の堆積物もかなり下流に流されました。その現在の様子を12月25日のシアトル・タイムズが記事にしていますので、紹介したいと思います。

20111228 ↑撤去開始から3ヶ月が過ぎた現在のエルワダム

   ※撤去の経過については、こちらをご参照下さい。

川に戻りつつあるエルワ川(シアトルタイムズ記事)

Lake Aldwell Reservoir starting to resemble a river from dam removal work on the Elwha River system

Photo (↑アドウェル湖)

オリンピック半島の上の東フアンデフカ海峡に注ぐエルワ川にある2つのダムの撤去について、エルワクララム族からニュースがアップされていた。

アドウェルダム湖は、再び川に戻りつつある。しかし、これは魚の遡上を妨げていた二つのダムの撤去が9月に始まってから、エルワクララム族が、大きな期待を持って見てきた、エルワ川の変化の一つにしか過ぎない。

11月1日までに、高さ108フィートのエルワダムは48フィート、高さ210フィートのグラインズキャニオンダムは32フィートの高さまで撤去された。

ダム湖からの水は、ダム下流とダム湖の水文地質を変えながら、撤去中のダムから溢れ出している。ダム撤去が始まる前には、自由に水が流れているのは、ほんの5マイルだけであった。

「エルワダムは約40%が壊され、背後のアドウェル湖は、もうダム湖ではありません」とクララム族の生息地プログラムマネージャのマイク・マックヘンリー氏は話す。
「川のようになりつつある。南端のデルタは更に露出し、堆積物は下流に流されています。」と。

更に、作業員は、100年間存在していた残骸ををアドウェル湖から取り除き、ボートがダムに近づかないように設置されていた防止柵も取り除かれた。流木は、川の下流の鮭の生息場所に役にたつであろうという理由で、下流に流されてきた。

「11月末に大きな降雨があったので、川のある地点においては、10,000立方フィート/秒の流量があり、それがタイナミックな変化をもたらしたのです」とマクヘンリー氏は語る。

クララム族は、河口近くでは、干潟に良質な砂の堆積がわずかながら増えているのに気が付いている。クララム族の環境コーディネイターのマット・ビーネ氏は「河口から海峡に吐き出される良質の堆積は、撤去工事中と比較してずっと顕著で、その形状も一日のうちに変わります」という。

「私達は、干潟に重要な土砂の堆積はまだ確認してないけれども、小さな粒子により濁りの程度が高くなっているのに気が付きます。」「ダムの撤去は、予定より進んでいるようであるけれども、川により、より大きな流れが発生するまで、干潟に重要な土砂堆積を見ることが出来るとは思っていません。」とのことである。

約100年の間、魚は 魚道のない二つのダムによって、上流に遡上することができなかった。

2000万立方ヤードを超える沈殿物がダムの背後に堆積したが、その殆どは、今後下流に流されて、河床に変化を与えることになると思われる。

二つのダムは連邦政府によって所有されており、オリンピック国立公園は撤去の先頭に立っている。

3億5000万ドルと見積もられているダムの撤去ととエルワ川の生態系復元プロジェクトは、米国における過去最大のダム撤去プロジェクトである。プロジェクトは、2013年までに終了予定。

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エルワ川で起こっている河川や河口の変化は、荒瀬ダムのゲート全開により現在起こっている球磨川や河口干潟の変化とほぼ同じようなもののように思えます。ただ、エルワ川は二つのダムを、川の再生のために撤去するのに対し、球磨川は荒瀬ダム撤去そのものが目的になっており、上流には瀬戸石ダム、下流には遥拝堰を抱えていることから、今後の川の再生においては、双方に違いが出てくるように思います。

日本発のダム撤去が、川の再生にどのような影響を与えるのかを考える上において、今後共日米の二つの川に注目していきたいと考えています。

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2011年10月21日 (金)

エルワ川のダム撤去開始から1ヶ月

9月19日から開始されたエルワ川の二つのダム、エルワダムとグラインズキャニオンダムの撤去開始からほぼ1ヶ月が経過しました。その間の経過をまとめてみました。たった、1ヶ月で壊せるなんて。経験の違いはあれ、荒瀬ダムの撤去においても学ぶべきところは多いように思います。

撤去前のダム

20110914 Gcdam20110914_2

エルワダム

20110926 19日の撤去開始から1週間目の26日には右岸のスピルウェイの上部が除去され、ダム湖の水が流れ出しました。(※関連動画

20110929 9月29日左岸も撤去され始めました。

Photo_2  ある程度壊された左岸のスピルウェイ部分はさらに発破により除去されます。制御発破の動画はこちらから

2011101710月17日導水管から上の部分は殆ど撤去されてしまいました。

20111019 10月19日、水の流れは左岸に変わり、右岸部分は塞がれてしまいました(※関連動画)。上流部のフェンスも取り除かれてしまうため、ダム湖の一般の利用も禁止されます。今後11月からは、サーモン等への影響に配慮して川の部分での作業は中止し、導水管や発電所関連部分の撤去に入る予定です。

ダム湖(Lake Adwell)の変化

Adwell20111009 Adwell20111020

10月9日(左)と10月20日(右)です。

グラインズキャニオンダム

Gcdam20110915_2 Photo_2 10月15日、撤去開始。上部から重機を使って撤去していきます。

Gcdam20111004 10月4日、ダム湖から水が滝のように流れ始めました。

Photo 上からの写真です。

20111014 ダム本体を撤去している人(重機の操作をしている人)の目線から下流をみたら、こういう景観が見えるようです(すごいですね)。10月14日撮影。

Gcdam20111020_3 Lake_mill_b_20111020 10月20日の前から見たところと横から見たところです。(※関連動画

ミル湖(Lake Mill)の変化

Lake_mill20111001 Lake_mill20111020

10月1日(左)と10月20日のミル湖(グラインズキャニオンのダム湖)の変化です。

※毎日のエルワダムグラインズキャニオンダムの様子はWEBページにもアップしています。

※関連ページAmerican rivers:Progress report: Elwha River dam removal   

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2011年9月18日 (日)

Elwha Dam removal Ceremony

Photo_2

エルワ川のダム撤去開始を祝う

日本時間で9月17日の午前7時、エルワダム撤去の記念式典がエルワダム湖サイトで実施され、動画配信されました。その様子を写真で紹介。

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20110917

0917elwha2 エルワダムはダムサイトに広い空間はないために、式典は招待された約400人に限定されたようです。ダム上流(左岸)が式典の会場です。

0 地元のダンスグループによる入場歌で開幕です。

4_2サーモンを描いた大きな看板の前で、招待者や地元の代表のスピーチが続きます。川が蘇ること、サーモンが戻って来ることに対する喜びのスプーチが多いように聞こえました。

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9 途中で、音楽演奏が入ります。Beautiful world、beautiful worldを湛えた歌が披露されます(上)、下は地元の高校生と合唱するDana Lyonsさんです。

10 式典が終わるとすぐにダム湖の中では、土砂除去する作業が開始されていました。本格的な撤去は2週間後ぐらいからです。

式典に参加されない人は、イベントのメイン会場であるthe Port Angeles City Pier の大型スクリーンで見ることができたようです。そちらの会場の様子が見られなかったは少し残念でした。

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2011年9月15日 (木)

エルワ川の二つのダム撤去、カウントダウン

Photo_2

9月17日、撤去開始を前に、大規模祝賀会始まる

今、アメリカの新聞は毎日のように、二つのダムの撤去(エルワダム・グラインズキャニオンダム)に関する記事が掲載されています。

Photo (↑ゲート全開中のエルワダム。Olympic National Park HP から)数百のダム撤去の事例があるアメリカで、どうしてここまで注目されているのか、それには理由があります。すでに1000近い撤去事例があっるアメリカでもこれほど大きなダムを二つ一緒に撤去するというのは初めてです。いよいよ大型ダムの撤去の時代に入ったことの象徴となる事業となっています。

球磨川程の規模のエルワ川にある高さ約32mと高さ約64mのダム二つを撤去する目的は、エルワ川の再生としたもので、この二つのダム撤去が川の再生にどれほどの影響をあたえるのか検証する大事な機会であるという視点から捉えられています。そして、実際今後予定されている大型ダムの撤去に生かされるため、現場では、建設以来激減したサーモンなどの魚類をを始めとする様々な調査研究が、河口までを含めた流域全体を視野にいれ実施されています。

 ⇒エルワダム撤去と河口の調査を報じたニュース

二つのダム撤去に対する研究者の関心

荒瀬ダム撤去場合は、撤去の影響は遥拝堰(荒瀬ダムの下流にある堰)までしか及ぼさないとして、モニタリング調査の範囲は遥拝堰までにとどまり、球磨川汽水域、河口の干潟や八代海までは調査の範囲に含まれていません。これはとても残念なのとです。エルワ川の場合はダムを撤去することで、降下性のサケが流域にどの程度戻ってくるかだけでなく、河口の干潟の生物の生息環境の変化から流域に生息する動物(熊やワシ、カワウソ)などの生息にどのような影響をあたえるのかまで、様々な調査が開始されています。

もちろん、潜在植生の復元やサーモン孵化事業など、再生のための積極的な事業も展開されています。

アメリカの地質研究者たちは、この二つのダムの撤去が与える影響について、以下の視点で注目しています。

●サーモンの数が、その生活史における多様性、生産性の観点からどのように変化するか。

●サーモンの復活が在来性の魚類や他の水生生物にどのような影響を与えるか。

●堆積物はいつどのようにして流域に還元されるか。

●ダム撤去終了後、どこくらいの期間で生態系、特にダム湖部分の生態系が復元されるか。

●放出されたダム湖の堆積物が淡水や海域の生態系及び生物相にどのような影響を与えるか。

●ダックや川の底生生物、カエル、熊などにダム撤去はどのような影響を与えるか。また、サーモンは流域の上流にまで戻ってくるか。

●ダム湖の露出した範囲で、どのような植物が確認されるか、また、先駆植物はどのような役割を果すか。

・・・荒瀬ダム撤去においても、ようやく大学の研究室など様々な研究者が関心をもち現場に訪れつつあります。私たちも市民レベルでの調査を開始しています。しかし、様々な観点からの調査は未だに不足していますし、その調査研究に対して、県や国からの協力・補助がないことは、本当に残念です。これからに期待したいものです。

二つのダム撤去により期待される効果

国立公園保全局は、この二つのダムの撤去がもたらすであろう効果について、次のように述べています。

1.サーモンが河口から70kmまで遡上できるようになり、その数が3000から40万に増える。

2.エルワ川と共に生きてきた先住民族の伝統・文化が復活する。

3.エルワ川流域の生態系が再生する

4.サーモンが川に戻り、川が再生することによって、釣りやカヤックなどレクレーションの場をもたらし、地域が活性化することによって経済的効果をもたらす。

5.山からの土砂が海まで供給され始めることによって、元の海岸や河口干潟がよみがえる。

荒瀬ダム撤去の地元でも、これらの予想は、荒瀬ダム撤去によっても同様だと期待が膨らんでいます。

Elwha River Restoration and Dam Removal Ceremony

そのダム撤去を前に、今月9月17日祝賀会を始め様々な関連イベントが13日夜から開始されています。著名人を招待した式典はもちろんのこと、参加できない人のためには大型スクリーンによる生中継、イベント広場におけるアーテストたちの音楽やトーク、ダムに関する資料のブース設置。また、撤去の過程や川の再生をテーマにした2日間に亘るシンポジウム開催や川の再生をテーマにした野外での環境学習ブログラムなどにも力を入れています。

楽しいところでは河口からダムまでの探検ツアー、河口でのサンセットクルーズ、ダム周辺のトレイルハイキング、先住民族であるクララム族との交流会など、イベントはどれもこのダム撤去を心待ちにしたきたのかその歓びが日本にいる私たちも伝わってくるものばかりです。全米から集まるであろうマスコミはホテルに臨時報道室を設置し、毎日のように特別番組が組まれています。祝賀会の様子は動画配信(→こちら)も予定されています。

詳しくは、Celebrate Elwha!のイベント案内を見て下さい。

また、ダムサイトやダム湖の毎日の変化は、下記サイトのスライドショーで閲覧可能です。

   ⇒Elwha River Restoration Project

ともあれ、

エルワダム、グラインズキャニオンダムの撤去開始に乾杯!

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2011年6月 3日 (金)

エルワダム発電停止・・・エルワ川再生へ向けて

20040601 6月1日、アメリカのエルワ川に建設されたエルワダムの発電機が止められました。これまで約700基のダムが撤去されたアメリカですが、エルワダムとグラインズキャニオンダムの撤去は最も大きなダム撤去になります。

エルワ川と二つのダム

Photo_3 ←川と二つのダムの位置をしました図です(ネットから拝借)

これら二つのダムがあるエルワ川はオリンプック国立公園の中にあり、球磨川より長さは短いのですが、約32mのエルワダム(1913年)が河口から5マイルのところに、またそこから8マイルのところに高さ約64mのグラインズキャニオンダムが建設されてから、荒瀬ダムと同様に洪水や河口の海岸線後退、太平洋性マスの生息域減少などの影響を与えてきました。

しかし、この二つのダム撤去が荒瀬ダム撤去と大きく違うのは、荒瀬ダムは撤去することそのものが目的になっていますが、この二つのダム撤去は「エルワ川再生のために」ということを目的としたダム撤去であるということです。再生プロジェウト予算はなんと二つのダムの撤去の約5倍の324万ドルと言われています。

エルワダムが出来たために、5種類の太平洋性マスと降下性のサケは大打撃を受け、39万尾いたといわれるこれらの魚類数は、2005年には3000にまで減少しています。球磨川のアユの放流量が毎年300万匹が目標ですが、アユとマスではわけが違います。1匹のスチールヘッド(マス)は、時には100ポンドにも成長し、その経済効果は1匹で8000円から3万円にもなるという試算もあります。

何よりダム撤去を切望したのは、古来よりこれらのマスの恩恵に預かって生活を営んできたElwha Klallam族です。そして、今この撤去及び再生計画はElwha Klallam族やオリンピック公園、行政などが一緒になって立案、実行されています。撤去方法や工期について、地元の意見が全く考案されることがない荒瀬ダムとなんという違いでしょう。

Photo_2 (↑エルワダム)

撤去方法

撤去の手順がネットにアップされていますこれによると左岸のクレストから撤去が開始され、その次に右岸クレスト、それから中央に設置されている水圧菅と撤去されていく予定になっています。今年の秋から工事が始まり約3年で終了予定です。

  ◆エルワダムの撤去手順  撤去手順PDFファイル

 ◆エルワダム 撤去シミュレーション

 ◆グラインズキャニオンダム撤去シミュレーション

エルワ川の再生計画

エルワ川の詳しい再生計画はまだ把握できていませんが、マスやサケの再生はただ単にダム撤去だけに任せるのではなく、人口孵化場がすでに建設され積極的な計画が立てられています。また、800エーカーにも及ぶ裸地の復元のために、地元の植物の種採取が、植物研究家やボタンティアによって2002年から行われ、9月の撤去開始と共に、浸食防止や外来種の浸入を防ぐために1万5000株が植栽される予定です。最終的に40万株の植栽を計画されています。

撤去により鮭や鱒がどのように戻るのか、また、それらか熊やイヌワシにどのような影響をあたえるのか、更にはダム湖の堆積物の放流が河口にどのような影響を与えるのか、エルワ川再生計画における試みが他のダム撤去に大いに役立つだろうと研究者は注目しています。.

この秋から工事がスタート

6月1日の発電停止のニュースは全米の新聞が大きく取り上げてありました。ダムがあるオリンピック公園当局は、9月17日に盛大な祝賀会を計画しています。国内で人気があるミュージッシャンや政治家など大物を招待されるといわれています。

荒瀬ダムは日本で初めてのの、それも大型のダム撤去です。ダム撤去が球磨川にどのような影響があるのかは、全国のダムの現場でも関心が持たれているものと思いますが、行政や事業者の取り組みには雲泥の差があるようです。

荒瀬ダム撤去まで、残すところ1年。国が30億を急きょ支出することになり撤去が前倒しされたエルワダム撤去は先行して、今年の9月から始まります。今後ともこのダム撤去及びその再生計画に注目していきたいと思います。

※下記動画は、エルワダムの建設経緯だけでなく、昔のElwha Klallam族の生活やポートアンジェラスの開拓の経緯、エルワダム建設当時の様子から、エルワ川に生息するマスや自然の紹介など、貴重な写真を利用した動画です。私たちが見てもとても参考になると共に、懐かしさをも感じさせるものとなっています。是非、見て下さい →The Elwha dam

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2010年4月 9日 (金)

アメリカのダム撤去情報(4)-エルワダム(その1)

エルワダム撤去

エルワダムは、約72kmと短いエルワ川の中にある二つの巨大ダムの一つで、河口から約7kmぐらいの位置にあります。荒瀬ダムよりやや大きい、高さ33mのダムです。この上流には更に大きな高さ64mのグラインズキャニオンダムがあります。この二つのダム撤去が2012年から始めまりますが、この撤去事業はアメリカの過去のダム撤去でも大きなものになると言われています。

Elwha_dam_imagesアメリカのダム撤去の事情は、日本とかなり異なりますが、発電目的のエルワダムはその規模だけでなく、ダムが建設されて以来、そこに生息していたサケやマスの90%以上が減少し、地元で生活してきたクララム族と国立公園局が、自然と魚の回復のために運動してきた結果撤去が実現に至った背景など、荒瀬ダムにも通じるものがあります。

荒瀬ダムとほぼ同時期に撤去予定のこのダムの撤去に注目しているところです。

そのエルワダム撤去の撤去手順が動画で紹介されています。http://www.youtube.com/watch?v=dKGlt00PVzE

エルワダム及びグラインズキャニオンダムに関する最新ニュース

今月4月8日は、その二つのダムの撤去費用に関する報道がありました。正確な訳ではないかもしれませんが、その内容を紹介します。爆破という手段がとれるアメリカの撤去費用と荒瀬ダムを比較することは難しいにしても、爆破によらない他のダムもアメリカの方がかなり安いようです。

◆始動、エルワダム撤去 the news tribune(2010年4月8日)

オリンピック国立公園は、エルワ川の2つのダム撤去努力のため、次の大きな段階に入りました。

国立公園当局はエルワダムとグラインズのキャニオンダムの撤去のための提案をしています。「ちょうど1週間前、ポートアンジェレス水処理場とエルワ水施設(どちらもエルワ川復元のための主要な標石)の完成を祝福しました」

「ダム撤去のための入札提案において、私達は、エルワ川を解放し、その水域に数十万匹の魚を回復する過程に関する、また別の目標の到達に達しました。」とカレン・ガスティン長官は準備されていた声明文の中で伝えています。

公園は、422日の週の間に、計画に関して関心がある業者と会議を開催する計画をしています。

受注工事は、高さ108フィート(約33m)のエルワダムと210フィート(約64m)のグラインズキャニオンダムの撤去という、国家の最も大きなダム撤去になると推定されます。二つのダムの撤去費用は4000万ドル(約37億)から6000万ドル(約56億円)と見積もられています。

このダム撤去により、太平洋産のサケやニジマス、および遡河性のカットスロートトラウトやブルトラウトなど5つの種がすべて、もう一度70マイル以上の上流に上ることが可能になると思われます。

魚が100年ぶりに戻ってくることによって、24万エーカーの流域に生きた栄養分が届き、昆虫からアメリカクロクマに至る生態系全体を回復させるだろうと、報道されています。

鮭が戻り川が復元されることによって、エルワ川沿いに居住し、エルワ川の回復に最初から努力してきたクララム族の文化もまた生き返ると思われます。

======ここまで(慨訳:つる詳子)

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