9月25日、埼玉県荒川の中流にある玉淀ダムを撤去したいという方たちから要請があって、玉淀ダムを訪れました。ここでは、2008年に「玉淀ダム撤去促進期成同盟会」が結成され、地元寄居町やその上流の長瀞町の議員さんや観光関係者、漁業者などが反対していると聞いていましたので、熊本県において蒲島知事が荒瀬ダム撤去を存続に方向転換した折には、玉淀ダムの方が先に撤去される可能性もあるとして、注目していました。
そんな現場を訪問してみました。同じダム問題を抱えていても、川と人との付き合い方や利用の仕方にはいろいろな違いがあります。玉淀ダムの現場と撤去運動に関する報告です。
玉淀ダムと撤去問題
高さ32m、堤長102mの玉淀ダムは、電力・利水目的に1964年に建設された重力コンクリート式の県営ダムです。ダムがあるのは寄居町の荒川は殆どダム湖になっていますが、その上流にある長瀞町とその上流の秩父は自然の流れが美しい渓谷を呈し、都心が近いこともあって多くの観光客であふれかえっていました。この地域は県立長瀞玉淀自然公園にもなっていますが、観光という面からするとダムがある寄居町と長瀞町は対象的です。このダムを撤去して観光資源に生かしたいという地元の思いはもっともです。
ここの撤去運動は荒瀬ダムが地元住民から起こったのとは違い、地元出身県議や長瀞町長、両町の商工会など観光関係者の要望から起こったようでした。そのためかまだ市民運動としてまでは発展していません。
埼玉県は「まだ使える」「撤去費用がかかる(約170億円)」として現時点では後ろ向きです。撤去費用の他に、農業用水として利用しているために、撤去をすれば、別途取水口が必要になり、その費用も別途100億円かかると説明しています。
玉淀ダムのダム湖です。ダム湖独特の濃いt茶緑色した湖面で、とても汚いです。「荒瀬ダムも酷い時はこんなだったなあ」と・・・もう私の頭の中では過去となっている淀んだダム湖特有の色をしていました。
ダム直下で友釣りいる人たちがいます。右手にあるのはおとり鮎屋さんです。荒川は河口から100km程に位置するこの玉淀ダムまでダムがないために鮎が遡上してくるのだそうです(上流には3つ大きなダムがある)。ダムから上流は秩父漁協の漁場になっていますが、今年は放流事業を行わなかったために、上流では鮎釣りをする人たちの姿は見られませんでした。荒川もまた鮎釣りは盛んなようです。川沿いには球磨川以上におとり鮎屋さんが随所にありました。このダムがなければ、この付近でも本当に良い鮎が採れることでしょう。
球磨川と荒川(中流部)の違い
球磨川はどこでも川沿いに道路があり(それも両サイド)、家が建っています。荒川は川沿いに殆ど道がなく、川を見るのは橋や鉄橋を渡る時ぐらいと限られています。球磨川流域に住む人は、どこに行くにも球磨川を見ることなしに移動することは少ないものです。川の水が濁ったり、増水したりすると、すぐダムとの関連を考えます。毎日のように、「今日の水はきれいだなあ」「いつまでも濁りが取れない」「急激に増水した。ダムが放流したな」など川の変化やダムとの関係を見ながら暮らしていいます。この川と人との距離の近さが、ダム撤去運動が高まった一因のような気がします。
長瀞町も球磨川と同じように川l下りがあります。この機会に体験してみることにしました。
観光客の数では圧倒的に長瀞町のほうが上です。近くに首都圏を抱えていることがその差になっているのでしょう。また、護岸の自然度も長瀞が勝っていると思います。先に述べたように両岸に道路も家もない区間が多いために、自然林に覆われた岸壁や巨石・奇岩もある自然の河原は絶景で、四季折々の景観が楽しめそうです。所要時間約30分コース1500円という手軽な料金設定もリピーターを呼びそうです。
ただ、球磨川では急流下りというように、川下りのスリルを味わうという意味では、多くの早瀬を下る球磨川下りが楽しめます。長瀞のライン下りは長瀞というように長い瀞場をゆっくり下るという感じです。また、球磨川の観光のほうが鮎に依存している割合が高い印象を受けました(やっぱり球磨川の鮎が日本一!)。ラフティングは球磨川の方が盛んなように見えるのも、球磨川の急流がその楽しみを倍増させているからだと思います。
親鼻橋の直下にある川下りの出発点の川原です。出発前のラフティングボート、川遊びをする人、釣り人と多くの人が日暮れ前の川を楽しんでいました。向こうに見えるのは荒川橋梁ですが、球磨川同様ここもSLが走っています。
下り始めると、待ってましたとばかりに、岩からダイビングを披露してくれる子供たち(高校生?)。この川でも川ガキは健在なようです。
川下りの中間点(30分コースの到着地点)岩畳です。岩が畳が幾重にも重ねられたような岩場は、運動場ぐらいの広さがあるのですがなんと一枚岩。観光地にもなっており、多くの人が訪れていました。
長瀞駅前の通りはみやげ物や飲食店が立ち並び、多くの人で溢れかえる様は、私の住む八代の商店街でいうと1年に一度のお祭りの日かというぐらいの賑わいを見せていました。「これこそ観光地だ~」という感じです。寄居町や長瀞町の人がダム撤去を望む理由が良く理解できるというものです。荒川の魅力が倍になることは間違いありません。川の魅力や鮎がもたらす経済効果を考えたら、撤去費用は荒瀬ダム以上に簡単に取り戻せそうです。
撤去運動について
9月の25日は地元の20数名の方たちに、荒瀬ダムの運動経過やゲート全開後の様子などを説明させていただきましたが、今後の玉淀ダムの撤去のための運動展開についての意見交換を行いました。運動はこれからとはいえ、リーダー的存在の方はすでに揃っている現場です。
2008年に商工会や地元議員なども参加する「玉淀ダム撤去促進期成同盟会」が結成され、寄居・長瀞両町長が反対の姿勢を見せているなど、他の撤去運動の現場と比較してとても心強いものがあります。しかし、結成されてからこれまでの撤去運動としては、県議会議員に県議会一般質問で取り上げてもらうことや要望行動程度のようです。世論喚起のための集会やイベント開催はまだ十分と言えず、多くの町民にはこの問題がまだあまり知られていません。ましてや流域住民を巻き込んだ運動展開はこれからです。
その第一弾として、11月13日にシンポジウム「玉淀ダムの環境への影響を考える」が開催されます。話題提供は、今回玉淀ダムを一緒に訪問した溝口隼平氏です。溝口氏は荒瀬ダムを始め、国内外のダム撤去の事情に詳しい人物です。荒川流域の多くの皆様に参加していただければうれしいです。
11月13日(土)秩父市歴史文化伝承館にて午後6時からです。 詳細紹介ページ:http://blogriverpolicy.net/article/167683798.html
ダム建設後甚大な被害を与えた荒瀬ダムは住民運動により、政治をも変え、2012年から撤去が開始されることなりました。しかし、荒瀬ダムに続くダム撤去の現場がなかったら、荒瀬ダムは特別なダムであるとして取り扱われ、現在のダムによる河川管理や利用の問題点になんら影響も与えることなく、これまでと同じようにダムが作り続けられていくことでしょう。
荒瀬ダムが球磨川にマイナスの影響を与えてきたのと同様、荒川においても玉淀ダムは多くのデメリットを与えてきたことが、現地を訪れてみれば容易に予想されます。そのデメリットと電力や灌漑利用というメリットを、平成26年3月31日の水利権許可期限を前にもう一度比較検討し、将来に残すべきものは何なのか考えてほしいと、長瀞や秩父の渓谷を見ながら思いました。
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